Fin del Año Verdi (japonés)

December 2, 2013

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ヴェルディ・イヤーの最後にふさわしい好演〜トリノ王立歌劇場「仮面舞踏会」「レクイエム」

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 ヴェルディ・イヤーもいよいよ大詰め。最後を飾る大型公演として、イタリアのトリノ王立歌劇場が来日にしていますが、生誕200年記念と位置づけられた「仮面舞踏会」、そして「レクイエム」は、アニバーサリーイヤーの掉尾を飾るのにふさわしい秀演でした。

このところ、イタリアではスカラ座に次ぐ評価を得ているトリノ王立歌劇場。その大きな理由は、劇場や音楽監督のノセダが自ら主導権を握るキャスト選びにあるようですが(トップがこの点を人任せにしている劇場も少なくありません)、プッチーニの「トスカ」を含む今回の来日演目いずれの公演も、その点は十全だったと思います。

1回きりだった「レクイエム」がまず素晴らしかった。簡潔で引き締まっていると同時に柔軟な音楽作りと、それにふさわしい歌手たち。品格と音楽性に満ちたバルチェッローナ&フリットリの女声ソリスト、より若々しくパワーがあるけれど、端正さをきちんとわきまえていたプレッティ&パラッツィの男声ソリスト。合唱も柔らかく、劇的な部分も含めてきちんとコントロールされているけれど色合いが豊かで、オーケストラとのブレンドも絶妙でした。作品に対するノセダの敬意が感じられたのも感動的。彼の解釈をソリストたちが尊重していたのは、ノセダの統率力の賜物でしょう。終結へ向かって音楽がたしかに流れて行く手応えを存分に味わうことができました。(「不調」とアナウンスされたにもかかわらず、品格のある柔らかな声で感銘を与えてくれたフリットリにも感謝です)

「仮面」も、バランスのとれた公演でした。それぞれの役柄に定評のある歌手を揃え、彼らの力を十分に発揮させる(全員が絶好調だったかは別にして)ことがまずできていたと思います。

個人的に一番よかったのは、主役を歌ったヴァルガス。ラテン的な美声に加えて(底抜けというほどではないけれど、その分品のいい)スタイリッシュな歌唱で、イタリア語のディクションもほんとうにきれい。やはりイタリア語がきれいだと音楽が映えます。響きがまるで違う。彼はモーツァルトが一番向いていると思いますが、ここのところ、ヴェルディを聴けば聴くほど、彼の音楽はモーツァルトの延長線上にある、と思う。ヴェリズモから時代を遡るような歌唱は間違っている、と感じます。その点、ヴァルガスは理想的なリッカルドでした。うまさが仇になってちょっと地味に感じられる時もある歌手ではありますが、今回の「仮面」では光っていたと思います。

ウルリカ役のマリアンナ・コルネッティも、安定した技術、深く色つやのある声で凄みのある歌唱を聴かせていました。オスカルを歌った、オーディションで選ばれた日本のホープ、市原愛も健闘。澄んだきれいな高音とチャーミングなたたずまいが役にぴったりでした。(オスカルというのは得な役で、ちょっと出てきていい感じの小唄を歌う。実はこれまでがっかりしたことがほとんどないように思います)。アメーリア役のオクサナ・ディカ、レナート役のガブリエーレ・ヴィヴィアーニもそれぞれ個性を発揮していましたが、技術的な安定度という点ではヴァルガスのレベルには達していないと感じられました。

とはいえ、音楽的な面での立役者はやはりノセダの指揮でした。不必要なけれん味を加えない、音楽の流れ、スタイルを尊重した、簡潔で潔い指揮。とはいえさっぱりしすぎるのではなく、曲の彫啄を生かしながら、そのなかで音楽の色合いや表情のヴァリエーションを尊重して行く。1曲1曲がほどよくヴィヴィッドなのです。だから品格を損ねない。ヴェルディの音楽にふさわしい方向性、だと思えました。これを、ヴェリズモのようにやるのは間違っていると改めて感じました。私はききそびれたのですが、ノセダは今回の記者会見で、「仮面舞踏会」について、教科書に立ち戻ってきっちり歌うことが求められる、というようなことを語っていたそうですが、納得できました。

(余談ですが、ヴェルディが好きになればなるほど、個人的にはプッチーニから遠ざかって行くのを感じます。むしろベルカント、そしてワーグナーには近づいて行くのですが)

イタリア人、ロレンツォ・マリアーニの演出も印象に残るもの。情熱と血の象徴(イタリア、そしてヴェルディっぽいですね)「赤」を中心に(イタリア人のつくる「赤」はほんとうにきれい)、黒や銀、白を主体にしたスタイリッシュな舞台。装置はシンプルで、場面によっては斜めに置かれたりして(たとえば第3幕で、妻と友人=上司に裏切られたレナートが苦悩する場面)人物の心理を暗示します。

演技の面でも、前奏曲の部分でリッカルドの対立者たちが銃を手に登場してパントマイムを行い、物語の背景を伝えるなど、物語の背景や人物の感情をわかりやすく伝える工夫がこらされていました。最後の舞踏会の場面では、場面転換を経て舞踏会が始まると同時に、天井から赤いテープが一斉に下りて華やかさを演出。それまで赤を除いてモノトーンが主体だった舞台が、赤のヴァリエーションをとりどりに追求した衣装の効果もあって一気に華やぎます。メトなどに比べればローコストにもかかわらず、華麗さは十分。

そしてこの場面でうまいな、と思ったのが、群衆の動かし方です。「仮面舞踏会」の舞踏会の場面は、派手に始まる割に、次の瞬間ゆったりした舞曲になってしまうので、最初のテンションを保つのが実はちょっと難しい。それを、群衆ー舞踏会の参加者ーの動きをいくつかのパターンに分けるなどして工夫することで、緊張感を途切れさせないことに成功していました。もちろん動きは音楽に忠実で、その分この場面の二重構造ー群衆の踊りとリッカルド&アメーリアの個人的な場面ーがちゃんと可視化されており、とてもわかりやすいものでした。

満員の客席の反応もよく、大いに盛り上がった「仮面舞踏会」初日となりました。

「仮面舞踏会」の公演はあと2回(4日、7日)です。